眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
そんな僕が、初めて見えないものの存在に恐怖を抱いたのも、その頃。
国道の交差点。
夕方ともなると交通量は膨れ上がり、そこでは頻繁に事故が多発していた。
しっかりと握られた母の手を握り返し、適度な安心感の中、僕は信号待ちをしていた。
隣には、同じく信号待ちをしている若い男性。
ヘッドフォンに両耳を包み、信号を見上げていた。
だが、幼い僕の目には、男性の隣に立つ老婆も見えていた。
古びた着物、もんぺらしきものを身につけた老婆。
春の田んぼでは、よく見かける服装だった。
いつもそこに立ち、行き交う車を見つめているのだ。
その姿が自分と同じものではないと、僕は前から気付いていた。
何より、信号の柱の下、老婆の透けた足元には、枯れかけた花が牛乳の空瓶に挿されて置かれていたからだ。
青信号。
母に手を引かれ、交差点を渡り終えた僕の後方で、空間を引き裂く車のブレーキ音が響いた。
.
国道の交差点。
夕方ともなると交通量は膨れ上がり、そこでは頻繁に事故が多発していた。
しっかりと握られた母の手を握り返し、適度な安心感の中、僕は信号待ちをしていた。
隣には、同じく信号待ちをしている若い男性。
ヘッドフォンに両耳を包み、信号を見上げていた。
だが、幼い僕の目には、男性の隣に立つ老婆も見えていた。
古びた着物、もんぺらしきものを身につけた老婆。
春の田んぼでは、よく見かける服装だった。
いつもそこに立ち、行き交う車を見つめているのだ。
その姿が自分と同じものではないと、僕は前から気付いていた。
何より、信号の柱の下、老婆の透けた足元には、枯れかけた花が牛乳の空瓶に挿されて置かれていたからだ。
青信号。
母に手を引かれ、交差点を渡り終えた僕の後方で、空間を引き裂く車のブレーキ音が響いた。
.