眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
振り返った僕の視界に飛び込んできた映像は、先程隣に立っていた若い男性が、右折車に飛ばされる瞬間であった。







車と衝動した男性は、脊椎の無い動物の様に折れ曲がり、地面へと降下していった。






スローモーションの様な映像……。










何が起こったのか、わからなかった。









目の前の惨劇から僕を庇う母の腕、その隙間から見えたものは………薄ら笑いを浮かべた老婆…。




微動な痙攣を繰り返す、横たえた男性の身体に絡み付き……笑う、老婆の姿。










衝撃が、幼い僕の呼吸を止めた。








もしや………この老婆が…。








僕の視線に気付いたのか、老婆が顔を上げた。


その表情に、止めようが無い震えが僕の身体を包む。






にたりと………老婆は笑ったのだ。









(……わしが見えるのかい?)










震えが、止まらなかった。

恐怖が、僕の精神を支配していた。






気が狂う程の恐怖………。






ただ、佇んでいるだけの存在だと思っていた。



まさか…あんな…。



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