眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
どうしたものか。





思案しながら、視線だけを泳がす。






玄関、靴箱の上には、白梅の花が咲いている。



生け花だ。


妻の作品だろう。





微かに揺れる枝は、まるで、こうして怒られている僕をからかい、笑っている様にも見えた。








……お前、僕の味方はしてくれないのか?









「聞いていらっしゃるの?」



ネクタイを緩めようとする事さえ、今の妻には釈に触るらしい。




うなだれ、僕はネクタイへと掛けた指を外した。









確かに去年、妻は言った。


覚えている。




だがそれでも、どうしようも無い事はあるのだ。







「あなたは……私の気持ちを考えてはいらっしゃらないのだわ」

「あの……瑞江さん?」




妻は、山吹色の着物の袖に顔を隠し、頭をもたげる。




そんな大袈裟な。







襟から覗く、妻の細くて白いうなじ。




綺麗だな…等と思ってしまう僕は、余裕があるのだろうか?





それ所では無いと言うのに。






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