眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
「人はね、八坂。逃げたい葛藤は必ずあるものだよ。でもね、それと向き合う事ができて初めて、成長があるんだ」









風が、川原の草を揺らす。

川面の水をざわめかせる。




月は、夜の闇を照らしている。


しんしんと、僕と八坂に光を注いでくれる。








静かな夜。








穏やかな月光が作り出した、異空間の様。











「私……」





八坂が、呟いた。



顔を向けた僕の隣で、ゆっくりと膝を抱える。







「私、このままじゃいけないって分かってる。でも……怖い。何も変わらないんじゃないかって……だから…」

「そのまま、眠っていたい?」






僕の問いに八坂はうつむき、薄めの唇を噛み締める。





「………夢を見ている方がいいよ。現実は見たくない」

「…………もったいないな」






僕は笑った。



笑いながら立ち上がる。






「八坂もわかるだろう?この景色の美しさ。川も月も、眠る桜の木々も、全てが生きているとは感じないか?」






八坂は、顔を上げた。



静かに、僕を見上げる。





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