眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
だが、その雫は悲しさからのものでは無い。









八坂は、笑っていた。




月の美しさを凌ぐ程の、笑顔…………。








応える様に、僕もまた笑う。





笑いながら、座る八坂の笑顔に、手を差し延べる。











「だから……もう起きなさい」







もう、眠らなくてもいい。

起きる時間がきたのだから。







「起きて、本来の自分へと戻りなさい。自分の足で立ち、歩き、その感触を噛み締めながら、そうして夢を掴みなさい」








現実と向き合い、成長していかなくては。










八坂は、小さくうなづいた。




コートの袖で涙を拭きながら、差し延べた僕の手を握り締め立ち上がる。








「私、頑張れるかな……」

「それは、八坂自身が一番理解しているだろう?」








そうかと八坂は、はにかむ様にうつむいた。




その表情からは、影となっていた迷いは消えていた。



決意と自信が、それにとって変わっているのを感じた。









僕の聲が届いたのだ。





大丈夫、この子はもう大丈夫。


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