眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
「先生、これは……夢?」




八坂の言葉に、僕は吹き出した。





「さぁ……八坂が思う通りじゃないかな?」









僕の手を握る八坂の手。




未来を掴むべき、小さな手。






その手を僕は、鳥を放つ様に離した。








「さぁ、もう行きなさい。僕も皆も、待っているからね」









小さな背を、軽く押してやる。



頑張れと、励ましを込めて。








自分の可能性を信じて、立ち上がって欲しい。




眠りから見る夢よりも、現実の方がはるかに美しく、幸せなのだから。









川原の道、闇の中、振り向かずに歩いて行く八坂の後姿。







それは、闇に溶け込む様に、道の途中で途絶え消えた……。









帰ったかな。






確認し、安堵から肩を落とす。






八坂はもう、迷う事は無いだろう。



闇の中も、まっすぐに進んでいけるだろう。







白い息を吐きながら、僕は桜の枝を見上げた。







この桜が咲く頃、本来の笑顔を取り戻した八坂に会える。





そう、確信していた。



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