眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
一人笑い、僕は身をすくめた。


忘れていた寒さが込み上げてきたのだ。





………もう、帰ろうかな。




思い、ポケットに両手を滑り込ませた。









家へと向かい始めた桜並木の途中。



視界に、向かいから歩いて来る人影が揺らめいている。






月の光の中、ぼんやりと浮かび上がる影。







……あれ………この気配は。










「あなた、何をしていらっしゃるの?」

「……………瑞江さんでしたか」






やはり、妻だった。






着物を着た細い肩に掛かる、温かそうな毛糸の肩掛け。




白い息に曇る表情は、心なしか…………まだ怒っている?







「夕食を温めている間に、どうして消えてしまうのですか」





頬を膨らます妻。





………すねている?






「よくここに居るとわかりましたね」

「あなたの散歩は、道なりにまっすぐにしか進みませんもの」

「…………そうですか」







そんな、猪の様に思われていたのか。




次からは、右折と左折を散歩コースに加える事にしよう。






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