眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
この状況では不謹慎な思考だと、慌てて首を振り追い出す。










………困ったな。


僕はいつになれば、靴を脱ぎ、家に上げてもらえるのだろう。







気付かれぬ様、溜息を漏らす。







ああ、やはり車に隠しておくべきだったのだろうか。


だが、息子が喜ぶだろうと思う父親の心理が、妻の尋問を甘んじて受ける結果になってしまったのだが。






「あの、瑞江さん?皆で食べればいいとは思えませんか?」

「あなた、私に食べろとおっしゃるの?」




顔を上げた妻は、頬を膨らませて僕を睨む。









……そんな顔をしないで下さいよ?


美人が台無しではありませんか。








それを言えば、更に怒りが降りかかるので、思うだけに留める。








「私、あなたを責めている訳ではございませんのよ?」



いえ、責めていますよ?

明らかに。






「ただ、悔しくて仕方がありませんのよ」

「悔しいって……ただの義理チョコではないですか」

「それでも、あなたへのチョコではありませんか」




妻は再び、美しい顔を袖で覆い隠した。




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