眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
帰宅した僕と妻を玄関で迎えてくれたのは、梅の花だった。




開いた戸、隙間から逃げ込んでくる様に流れてきた風をからかう様に、揺れる。





先刻、僕と妻の言い合いを楽しんで見物していたくせに、いい気なものだ。









「帰ったよ」




呟き、その細い枝を指先で弾く。










「あら、宗久さん」




居間から、母が顔を出した。




この人も、のん気なものだ。


今に始まった事ではないが。







「帰りました、母さん」

「今、あなた宛てに電話がありましたよ?病院からでしたが、何かあったのですか?」




屈み込み、僕の靴を揃えていた妻が手を止め、顔を上げた。





「病院ですって?」






不安げに僕を刺す、二人の視線。




思わず、頭を掻いた。




そんな、病院からだというだけで…そんな目をしなくても。










「誰からの電話でしたか?」

「八坂さんとおっしゃっておりましたよ?」








八坂……。









ああ、やはりな。




そうではないかと思っていた。





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