眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
八坂は、ちゃんと戻ったらしい。
「それならば心配いりませんよ。良い報せでしょう」
そう、悪い報せではない。
かけ直した電話の内容は、やはり良い報せであった。
「戻りました………先生…あの子の意識が…」
受話器の向こう、耳に染み入る、涙混じりの八坂の母親の声。
八坂美幸の意識が戻った、という報せであった。
八坂美幸は、半年前に手首を切り、自殺を図った。
残された手紙に記してあった理由は、家庭問題。
両親の、重圧とも言える進路問題からであったらしい。
幸い発見が早く、一命はとりとめたが………八坂は、眠ったままであったのだ。
身体は回復しているのに、意識だけが戻らない。
医学的視点からは、説明がつかない容態であった。
(夢を、見ている方がいい)
川原で会った八坂は、そう言っていた。
八坂は、怯えていた。
現実に。
戻るのが怖い、と。
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「それならば心配いりませんよ。良い報せでしょう」
そう、悪い報せではない。
かけ直した電話の内容は、やはり良い報せであった。
「戻りました………先生…あの子の意識が…」
受話器の向こう、耳に染み入る、涙混じりの八坂の母親の声。
八坂美幸の意識が戻った、という報せであった。
八坂美幸は、半年前に手首を切り、自殺を図った。
残された手紙に記してあった理由は、家庭問題。
両親の、重圧とも言える進路問題からであったらしい。
幸い発見が早く、一命はとりとめたが………八坂は、眠ったままであったのだ。
身体は回復しているのに、意識だけが戻らない。
医学的視点からは、説明がつかない容態であった。
(夢を、見ている方がいい)
川原で会った八坂は、そう言っていた。
八坂は、怯えていた。
現実に。
戻るのが怖い、と。
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