眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
その怯えは、ベッドで眠り続ける八坂を見舞った時から気付いていた。









どうにかしてやりたかった。







だが、肉体に語り掛けても効果は無いだろうと感じてもいた。





八坂の意識は奥底で閉じられ、心は、外界からの接触を頑なに拒んでいたからだ。







けれど、八坂は戻ってきた。





直接、眠る八坂に聲を届ける事ができたから。











良かった。





会えて、良かった。




気まぐれの散歩も、悪くない。






………いや、これも導きかもしれないな。







八坂の、眠る八坂の聲が導いたのかもしれない。











時間はかかったが、八坂は眠りから覚めた。





自分の意思で瞼を開いて、この世界の光を、現実を、その瞳に受ける事を決めて。







それは、八坂の勇気だ。







閉ざしていた扉を、再び開け放ったのは八坂自身の両手。





僕の手は、扉をノックしただけにすぎないのだから。







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