眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
新学期。






校庭を囲む桜の木々は、今が盛りだ。









小さな花びらは、温もりを運んできた春風との再会を楽しんでいるのか、はらはらと空中を舞う。




彼等が、輝く事を許された季節。






まるで、遊んでいるみたいだな。




そっと、手の平を差し延べた。









「やあ、今年も一段と綺麗だね」







当然でしょう、とでも言いたいのか、広げた手の平に花びらが降り落ちる。






さすが戦火を免れた桜達、人の扱いをよくご存知で。







手の平、ベルベットの様な花びらの手触りを楽しみながら、スーツのポケットにおさめる。






出席簿を抱え直し、僕は教室へと向かう。









桜の季節は、始まりでもある。






巡る季節の始まり。








長い長い、縮こまっていた冬を越え、また歩こうと思える季節。






永い時の中、人が変わろうとも、季節は同じ様に巡り続ける。





それは、この世が人だけのものでは無いという証だろう。








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