眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
見つめる僕の視線の先で、妻は切なげに溜息をつく。



袖で隠した美貌、黒目がちな瞳だけを、そこからちらりと覗かせる。






何ですか。


その、疑っていないと宣言しながらの疑心に満ちた眼差しは。








「あなた………英語の佐藤先生と、仲がよろしいのですってね」

「瑞江さん?!どこからそんなデマを?!」




だから買い物で、偶然佐藤先生と会った時、やけに僕に触れていたのか。








ああ、どうしよう。


紙袋の中には、佐藤先生からの義理チョコもあるというのに…。









「そんなにチョコがおありでしたら、私からのなんていりませんわね」




つんと横を向く妻。





用意していたのか。



それは……少し欲しいかもしれない。







「瑞江さんからのでしたら、特別ですよ。僕は欲しいと………」

「今更、そんなしおらしい事をおっしゃっても駄目ですわ」




今更と言われてしまった。

本心だったのに。








「あなたなんて、チョコを食べ過ぎてお腹を壊してしまえばよろしいのよ」




僕一人で食べろと?


何て殺生な。



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