土曜日の図書館
「図書館、ですかね。」

「図書館?」


ここで現実めいた答えしか出せないところが、俺がつまらない人間だと言われる所以だ。


「図書館は僕の好きな場所です。」

「図書館員としては模範解答だね。」

「あ、いえ…そういうわけじゃ…。
天宮さんならどこに行きつきます?」

「…そうだね…。」


彼は一瞬戸惑うような、切ないような顔をした。
…訊いちゃいけない質問だったかもしれない。


「…『彼女』のいる場所に。」


たとえ自分が恋をしていなくても、色恋沙汰に鈍感であっても、彼の表情から分かることはたった一つだ。


彼は叶わぬ恋をしている。
でも想いは止まらない。止められない。


美しく儚い横顔が切なげな雰囲気漂わせている。
沈黙が妙に痛いのは気のせいではないだろう。


「『幻想アイロニー』の主人公に近い気持ち、なのかもしれないね。」


囁くように、呟くように言葉を落として、彼はいつもの場所へと進んでいった。


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