土曜日の図書館

想い重ねて恋に

* * * * *


年が明けて2週間が経った。
寒いのはもちろんだが、一人の利用者が来なくなってしまった。


山内かえでさん。


12月最後の土曜日以降、彼女は図書館に現れていない。


一利用者と一図書館員という関係だった俺でさえ、なんだか少し寂しかったりする。
ましてや『彼』はもっとだろう。


儚げな雰囲気はさらに儚さを増し、消えそうな美しさは雪に溶けてしまいそうだった。


あまりに切なそうで哀しそうだったからかもしれない。
俺は気付くと声を掛けていた。


「…天宮さん。」


濃紺の着物が少しだけ揺れる。
マロンブラウンの髪がさらりと音を微かに立てる。
万年筆の動きを止め、彼はゆっくりと顔を上げた。


「小澤さん。こんにちは。」


笑顔が笑顔には見えなかった。
きっと偏見も入っているのだろう。


「山内さん、最近来ませんね。」


直球勝負しか出来ない自分を呪いたい。
そう思ったのは嘘じゃなかった。


「そうだね…。」


どこか遠くを見つめながら彼はそう呟いた。

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