土曜日の図書館
「何か…あったんですか?」


完全に利用者と職員の境界線を越えた質問だったけれど、それに嫌な顔もせず、彼はただ笑顔を浮かべたまま口を開く。


「あったと言えばあったのだろうし、なかったと言えば無かったんだと思う。
それでもかえでは…来ない。それだけは分かるよ。」


危うく、『それでいいんですか』と詰め寄りそうになってぐっと堪える。
その代わりに口をついで出た言葉はまたしても直球だった。


「山内さんって天宮さんから見るとどういう子ですか?」

「小澤さんから見るとどういう子に見える?」

「僕…にはなかなか生意気な子でしたよ。
よく突っかかってくるって言うんですかね?
でも素直で分かりやすくて可愛いなって思うこともあったり。」

「真っすぐだよね、かえでは。
真っすぐで真摯で僕には痛いくらいだった。」

「痛い…。」

「かえでは美しかった。僕は汚くて…責められているみたいだったなぁ。」

「それは…彼女と一緒にいることが辛かったってことですか?」

「…そうじゃないよ。そうじゃない。
とても楽しかった。彼女といた時間はとてもね。」


全てを思い出に変えてしまったかのような表情を浮かべて、彼はそう言った。
胸が締め付けられそうだった。

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