土曜日の図書館
「今、あなたの願いはなんですか?」


一瞬考えたような顔をして、言葉を伏せる。
そして思いついたように口を開く。


「かえでの幸せを、ただ願っているよ。
かえではきっと、別の誰かと幸せになれる。」


『そうですね』『俺もそう思います』『彼女はきっと幸せになりますよ』


どんな言葉を並べても足りない気がした。
彼の深いところに手が届かないように、彼の想いの淵にも俺の手は届かない。


山内さんがまだ彼を想っているだろうことは予想がつくけれど、これ以上俺に何が言えるっていうんだ。
気になったから、山内さんの想いを叶えてほしかったからこそ口にした。
だけどいざ蓋を開けてみたら、もう俺の手なんか触れることも出来ないような場所に二人はいた。


土曜日の図書館でひっそりと咲きかけていた二人の花はもう…ない。
花の名は…もう誰も知らない。
山内さんとしては恋の花を育てていたのかもしれない。
でも彼は違った。彼は恋とは別の『大切な花』を育てていた。


一緒にいたのに、一番近くにいたのに。
大切にしていたのに、想っていたのに。


それでも重ならない想いがあるということを、俺はこの時ようやく知った。
いかに自分の恋をおざなりにしてきたかを痛感する。


「天宮さんは素敵な恋をたくさん経験してるんですね。」

「え?」

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