土曜日の図書館
「俺は今まで誰かと付き合ったりする経験を踏めば、いつかいい恋に辿り着けるとか、そんな風に考えてました。
好きでもない子と付き合ったこともありますし。付き合ってるうちに好きになるだろうなとか、そういう風に思っていたこともあります。っていうか思ってました。」

「でも、変わったんだね。『彼女』のおかげで。」

「いえ…そうじゃないんです。」

「どういうことかな?」

「…天宮さんのお話を聞いて、です。」

「僕の話?」

「大事なのはどれだけ相手を想ったか、だと思います。少なくとも今の俺は。」

「…なかなか興味深いね。」

「天宮さんはとても純粋だと思います。過去はよく分かりませんが、それでも山内さんへの想いはとても綺麗で真っすぐだったと…。」

「僕の想いが綺麗…か。そうかなぁ。」

「叶う恋だけが恋じゃない。だとしたら、天宮さんの恋愛遍歴は相当なものだと思いますよ。
小説でも書けちゃうくらいに。」

「…本当に小澤さんは面白いなぁ。
あ、君のお姫様が来たようだよ。」


彼の目線の先には重そうなカバンを持った制服姿の彼女がいた。
…本をどれだけ返すんだ、今日は。


「…貴重なお話、ありがとうございました。ぜひまた。」

「そうだね、また。」


微かに彼は微笑んで、俺も少し微笑み返した。
そして俺は彼女の元へと向かった。

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