土曜日の図書館
「…よく…分かりません。」

「え?」


彼女の顔が俯く。
表情がよく見えない。


「…『好き』とか『恋』とか…そういうのとはずっと疎遠だったもので。」

「そう…なんだ…。」


どうしよう。なんかどうしようもなく可愛い。
このまま抱きしめてしまいたいけど、きっとそんなことしたら彼女は驚いて逃げてしまう気がする。


「今日はお礼をしたかったんです。前に…本を買っていただきましたから。」

「あー…なるほどね。つまりお礼のチョコと。」

「…だと思ってました。」

「え?」

「…私、小澤さんに嘘吐きました。」

「嘘?」

「怒ってない…だなんて嘘…です。
でも自分じゃ説明出来ない気持ちで、それでヤキモチって訊かれた時も…それはよく分からなくて。」


…ダメだ。もっと我慢するつもりだったけど、こんなに可愛いんだから仕方ない。
ぶっ飛ばされる可能性もあるけど(ていうかその可能性濃厚?)無理だ。ごめん。


俺は彼女の細い腕を掴んでそのままぐっと引き寄せた。
もちろん彼女は身体を少し強張らせる。
…運良くぶっ飛ばされはしなかった。


「ずっと言わないできたけど、俺は君が好きだよ。
あの日…魔法の本に出会った日、俺は本当の君に出会った。」

「本当の私…?」

「よく図書館を利用してることは知ってた。
真面目そうな女の子で、本当に本が好きなんだろうなくらいにしか思ってなかった。
でも君はそんな簡単な言葉で片付けられるような子じゃなかった。」


言葉が止まらない。
どんどんどんどん溢れて来て、止められない。


「君は名前の通りの女の子だった。
凜としていて、真っすぐで強くて、優しい女の子だった。
俺よりも強いんだもん、驚いちゃった。」


俺は腕を緩めない。

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