キミ色
じめじめと教室を埋める湿気や暗い空とは裏腹に、俺は凄く晴れ晴れした気分だった。
朝、時雨に言われた言葉が今でも俺に元気を与えてくれているからだ。



そのせいか、今日は1限目の現国から4限目の生物まで全ての授業をまともに受けた。
こんなに先生の話を聴いたのは、何年ぶりだろう?


今日だけは、ノートも綺麗にとれている。
そんなノートを見て、俺は自画自賛していた。



「櫂!!飯行こ?飯ー!!腹減った!」



不意にそう言われたので、顔を上げるとそこにはダルそうな表情で突っ立っている時雨の姿があった。
俺は頷き従うがままに立ち上がると、ポケットに携帯と財布を入れた。


同じような格好をしている時雨について行くと、いつもの場所についた。
いつもの場所とは、別館にある小さな食堂。



朝お弁当なんて作る暇がない俺は、1年の頃から時雨と一緒にここへ通い続けている。
安いわりに美味しいので高校生には絶賛されているこの食堂は、きっとこの高校の1番の魅力だろう。



もう慣れた手つきで食券を買うと、時雨がおばちゃんに声をかけた。


「おっばちゃーん!!いつもの頼む!」



元気な声で呼びかけた時雨に、優しい笑みを浮かべながらおばちゃんが奥から顔を出した。


「はいよ。今日もあんた等が1番だね。」



ほんわかとした声でそう言ってくれるおばちゃん。
俺は、そんなおばちゃんの温かい人柄とこの声が好きだ。



なんとなくこの声が時雨のおばあちゃんの声に似ていて、聴く度に安心できる。
きっと、このおばちゃんも少なからず俺を支えてくれている1人だ。



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