キミ色
「はいよ。おまちどうさま」



独特の声でそう言いながら、おばちゃんが奥から出てきた。
手には、2つのトレーがある。


1つには熱々のうどん、もう1つにはサンドイッチが乗っている。
うどんの湯気がおばちゃんに重なり、ほんわかした雰囲気が余計に醸し出された。


「ありがと!おばちゃん」



時雨はそう言いながら最高のかっこいい笑顔をおばちゃんに見せると、うどんが入ったトレーを取っていつもの席まで先に行ってしまった。


「今日も元気だね、時雨は!」


時雨の背中を見ながら、おばちゃんは俺にそう零した。



「まぁね、午前中の授業は全部爆睡だったし。」


「全く、あの子は…、でも憎めないわね。本当にズルい子。」



ズルい子…か。
確かにそうかもしれない。


時雨は何でも出来るくせに、何もやらない。
行動を起こそうとしない。


きっと勉強が出来ないのも、本当は出来るのにやらないだけなんだ。
だって、そうじゃないと俺と同じ学校に入れたなんて奇跡に近いのだから…。



中3の夏休み明けぐらいから、時雨は急に成長した。
模試でもどんどん偏差値を上げて、1回抜かれそうにもなった。



きっと、本気でやれば俺なんかすぐに抜かせるはずなのに、何で何にもしないんだろう…?


でも、そんなこと時雨には聞かない。
聴いた所で返ってくる言葉はわかっているからだ。


どうせ“めんどくさい”の一言で、はぐらかすんだろう?



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