キミ色
全速力で若菜チャンが行った方向に足を動かす。
でも、ある場所で俺の足は完全に止まってしまった。


どこだ…?
どっち行った…?


荒い息遣いをしながら、俺は3つに分かれている道を見回していた。
ここからは、下に続く左の階段、他のクラスに続く真っ直ぐの道、職員棟に続く右の道、の3つに分かれているのだ。



「ハァ…、ハァ…、どっちだよ…?」


虚しく口から零れた言葉は、空気と混ざり合い消えていく。
無意識の内に俺の顔は下を向いていた。



あぁー!、もう!
くそっ…


やり場のない気持ちが俺を支配する。
あの時、もっと大きな声で止めていたら…



もっと早く駆け出していたら…
もっと早く、あの黒板を見ていたら…



後悔と苛立ちが後から後から俺に押し迫ってくる。
脳裏に浮かんでくる、さっきの雫と、あの時見た黒板の“辛”という文字…



いつ若菜チャンが1本の線を消したのかは、全く解らない。
でも、確かに黒板には“辛”という文字がくっきりと映っていた。



きっとこれが、若菜チャンの本当の叫び…
心の中の底に閉じ込めようとしている本当の気持ち…。




閉じ込めてなんか欲しくない。
どれだけ辛い想いでも…、苦しい想いでも…。



たとえ絶対に届かない想いだとしても…




伝えられる時に伝えておかなくちゃいけないんだよ…。




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