キミ色
俺は、制服のポケットの中に手を入れた。
ポケットの中に眠る、いつかの空羽の手紙とキミのリング。


俺は掌の中にリングを入れてぎゅっと強く握ると、その角を曲がった。
やはり予感通り、そこには隅で蹲り肩を震わせている彼女がいた。



「……若菜チャン─…」



呟くような小さな声でそう零すと、若菜チャンはその声に敏感に反応し顔をぱっとあげた。
そして、急に立ち上がると、俺から遠ざかるように走り出そうとした。



そんな若菜チャンの腕を、咄嗟に俺の手が掴む。


「…待って」



勝手に出てくる言葉。
考えて言葉を発してる訳じゃない、ただ勝手に口が喋っていた。



「…な、ん、で─…?」



涙声でそう言う若菜チャンの頬に、透明の液体が次々と流れていく。
その表情を見るのが、まるで自分の心と重なるようで辛い…



我慢し続けていた泪を流す若菜チャンは、弱弱しくて…
鎧が外れた人形のように、力が抜けていた。



でも、下に落ちていく雫だけは、力強く落ちていく。
廊下に作られていく水玉模様は、若菜チャンの精一杯の叫びのようだ。



若菜チャン…
キミは強いんだ、誰よりも強がりなんだ。



感じた気持ちは、俺も若菜チャンと一緒だった…
正直…、あの景色で内心ボロボロにされたんだ─…



でも、俺はキミのように泪を流すことは出来ない…
俺は臆病で怖がりで…弱い人間だから…、弱さを見せることなど出来ないんだ。



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