キミ色
8:離れる距離
梅雨も明け、世間は本格的に夏に近づいてきていた。
少しずつだけど蝉も鳴き始め、テレビでは熱中症対策なんて特集も多くなっている。



そんな世間の中に身を任せる俺は、淡々とした日々を過ごしていた。


毎日同じ。
俺の晴れ切れない気持ちも全く変わらない。


空羽ともあれ以来前にも増して会わなくなり、今は俺だけでなく逆に空羽も俺を避けるようになった。



同じように時雨とも喋る回数は日に日に減っていた。



朝起きて、蓮を迎えに行って、退屈な授業をこなし、蓮の家に行って、聡クンが寝てから家に帰る。



俺はそんな生活を送り続けていた。




でも、俺は今からそんな日常を壊そうとしていた。
目の前には、1つの小さな喫茶店。



日曜日の今日、俺は珍しく蓮の家には行かず最寄り駅から2つ目の霞ヶ丘駅から歩いて5分程の喫茶店に来ていた。



…ハァ。



小さな扉の前で大きな深呼吸を1回すると、俺は扉の取っ手に手をかけた。
そして、覚悟を決めゆっくりと回し扉を開けようとした、その時だった…



「……か…い?」



その滑らかな声に敏感に反応し、瞬時に止まってしまった体。
この声……


その聞き慣れた声にぱっと振り向くと、そこにはやっぱりあの人がいた。



「美波さん…」



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