キミ色
「あれ…、お客さんか?」


顔を少ししかめてそう言うと、マスターは俺を見た。
どうやらマスターの頭から俺は完全に消えてしまっているようだ。


「何いってんのよ、マスター。櫂だよ櫂!!ほら、去年時雨と一緒にうちに来たでしょ?!」


「あぁ…、そうだったような気もするなぁ。」


「ったく、マスターは…。」


美波さんはそう零すと、俺を引っ張って近くの席に座らせた。
久しぶりに座る椅子。
この感覚もどこか懐かしい。



「ってか、まだ店開いてないんだよ?!ま、あんたのことだからそれ狙いでここに来たんだろうけどさ。」



そう言いながら、美波さんは俺の目の前にレモンティーを置いた。


「これだったよね?あんたの大好物。」


「…うん。」



ストローから一口レモンティーを含む。
これもまた、懐かしい味がする。



「また、ここで働くの?どーせ、今日それ目当てで来たんでしょ?この季節だしね。」



さすが、美波さん。
全て先読みされていた。



俺は素直に頷くと、また一口レモンティーを口へと運んだ。



「ま、それは全然大歓迎だけどさ。…あんた、変わったね。」



「──………?」



その言葉を零すと、美波さんはマスターの元に行ってしまった。



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