キミ色
俺の気持ちとは裏腹にゆっくり俺を運んで行くエレベーター。
やっとの思いで開いた扉を駆け下りると、全速力で慣れた道を走る。



ようやく辿り着いた、槻丘と書かれてあるネームプレート。
俺は咄嗟にドアノブに手をかけ思い切り開けようとしたが、扉が開かない。



そっか…鍵だ、鍵っ…



焦りで震える右手をポケットに入れ鍵を取ると、中から2つの小さな紙も一緒に出てしまった。



あ…、空羽の手紙がっ……



びしょ濡れの自分の髪から滴る水と地面に広がる雨が序々にその紙を濡らして行く。
びしょびしょになった紙は、もう原型を失っていた…。




大丈夫…、大丈夫だよ。
空羽はそんなに弱い奴じゃない。




『あたしは…あなたの事知ってるんだ…。』




強い瞳でお前は俺にこう言ったんだ…
初対面の俺に、少しだけはにかみながら。



たった1人で…
こんな東京まで来たんだ……



友達も俺もいなくて、孤独だったはずなのに。
なのに…、空羽はいっつも俺の前で無邪気に笑ってた…




最初、空羽の事を臆病な奴だと想ってたよ。
…だけど、全く違った。





空羽は…、俺よりずっとずっと強い。





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