【短編】十一屋(トイチヤ)~ナニワ金融道~
「どうぞ~」

「あっはいっ」

朝日喜は靴を脱ぎ、玄関をあがる。

まだ夜は明けず、
点々とともるランプが淡い灯りを放つ。

舞女支について
暗がりの薄明るい廊下を歩いていくいくと、通り並ぶ障子の部屋から、

「あっ……あっ…
旦那…はん………あぅ…ハぁ……あぁ…」

女性のなやましげな声が聞こえてきた。

「ぅふぇっ!?…」

朝日喜は、目が点になる。

前を見ると、
舞女支は何事もない様にスタスタと歩いていくので、朝日喜は、
キョロキョロしながら挙動不振についていった。


舞女支が、
障子が並ぶ一角に立ち止まる。

朝日喜も後について立ち止まる。


「女将さん、
お客はんが見えましたえ」

「入りや」

閉まった障子の中から年輩の女性の声がし、

「はい。

どうぞ」

「あ、は、はい」

朝日喜は、
言われるままに中へと入った。


ロクソク灯りの薄明るい部屋に、
着物を粋に着こなした極道の妻の様な貫禄のある女性がひとり、

妖艶に座って
朝日喜を見据える。

「し、仕事にあがりましたっ」

「なぁにビクビクしとるんや。きばりや~」

「はっはいっ」

「早速仕事や」

「はいっ、よ、宜しくっお願いしますっ」

「あんた、指圧したことあるか?」

「あ、いっいいえ」

「体力に自信は?」

「あ、あります」

「そうか~

その子から、指圧マッサージしてや。
一番人気の子やから、
よう張りますねん」

「あ、はいっ」

朝日喜は、舞女支の方を見る。

可愛らしい容姿に
つい見惚れ

「変な気起こすなやっ、
ワテと城頭八はんとは、
三十年の付き合いやから。
意味、わかりはります?」

「はっはいぃ」

朝日喜は、
自分の身の危険を案じて返事をした。
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