伝えたい言葉
「綾子はいいよね。彼氏もいて、色んな人に愛されてる。」
例え、綾子に裏があっても、それが他人に見えなければいい。全てをさらけ出す必要なんてないんだから。
「そんなことないよ。里奈だっていいとこあるし。」
あたし?
あたしのいいとこってなに?
「例えばどこ?」
「優しいとこ」
当たり障りのない答えだと思った。きっと綾子も誰でも他人を褒める時に困ると出てくる答えだ。
あたしは優しくなんかない。
「今、何時?」
綾子はそう言いながらあたしが携帯を開いて確認するより早く、腕時計に目をやり「8時か」と苦笑いした。
「今日、なんかあるの?」
「弘樹と電話の約束。9時から。そろそろ帰る?もう歌い切ったでしょ。」
弘樹って彼氏の名前じゃないよね?
ふとそんなことに気付いて、あたしは半ば睨み付けるように綾子を一瞥し、レシートを取る。
「本当に彼氏と上手くいってるの?最近、よく弘樹の話するよね?」
「別に。弘樹には、なんか本音話せるだけ。」
弘樹はそこそこ顔もいいし、綾子は今の彼氏と付き合う前は弘樹を好きだった時期がある。
段々とその想いが冷めてきて今の彼氏に移り変わった過程をあたしは知っているけど、最近の綾子は少し様子がおかしい。
浮気?
勝手な想像をして、キレないようにあたしはレシートを握りしめると、カラオケボックスの扉を開けた。