空と砂と恋の時計
一度目は本当に偶然。気紛れで屋上に来た彼が私に声を掛けてきた。いきなりの事だったので面食らってしまったけど、断る理由もなかったのでご一緒する事にした。彼が一つ下の後輩と知ったのはそれから十分後の事。整った顔立ちに人懐っこい笑顔。でも、時折見せる大人びた表情が彼の学年に対する予想を霧隠れさせていた。
二度目は必然。勿論、私が友人達との昼食を取らず、一人で屋上にいる事が条件なのだが。待っていたつもりもない。期待していたわけでもない。でも「また来ちゃいました」と、いつもの笑顔でこちらに近付いて来る彼を見て嬉しくなったのは事実。
三度目は――もう、それが当然の事かのように私達は誰もいない屋上で一緒にお昼ごはんを囲んでいた。
「いやね、四時間目が古文だったのがいけなかった。昨晩、徹夜でゲームしていた俺としましては、眠る以外に選択肢がなかったのですよ。おかげでスタートダッシュが遅れたんですけど」
「それって貴志以外の誰も悪くないじゃない」
「いやはや、ごもっとも」
彼はへへーと平伏しながら地面に座る。
スタートが遅れたからといって、入荷少数につき一番入手困難なカツサンドを一つ手にしている辺りが彼らしい。
袋を開けて、もぐもぐとパンを頬張る。一つ食べ終わる所要時間は三分足らず。
会話を挟まなければ、ものの十分で彼の昼食は終わってしまう。
二つ目のパンを食べている最中だった。口の中のパンを処理して貴志が突然、私の名を呼ぶ。
「百合さん」
「ん? なあに」
「俺達って、そろそろ此処でもう一歩先に進んでも良いと思うんだ」
「ふ~ん。………………え?」
一度、適当に相槌を打った私は頭の中で貴志の言葉を反芻させて、その意味に疑問符を浮かべた。
いや、あの……もう一歩進むも何もスタートすら切った憶えはないんですけど。
貴志は内心、戸惑いに満ちた私の事など気にした様子もなく、
「明日、俺の分の弁当も作って来て下さい」
にっこりと、断るなんて選択肢に入れてくれない人懐っこい笑顔でそんな事をお願いしてきた。
「えっ、えっ。お弁当? な、何で」
いけない。いけない。何を動揺しまくってるんだか。ちょっと深呼吸。