純恋〜スミレ〜【完】
涙を流したいのに、流すことが出来ない。


泣けばいいのに、あたし。


悲しかったこととか、悔しかったこととか、嫌だったこととか全部思い出して。


煙草についてたピンクベージュのリップグロスとか、


≪アダム&イヴ≫のマッチとか、


ベッドに残された見覚えのないコンドームの袋とか、


『別れよっか?』って切り出したあたしを見もせずに煙草を吸った達也の姿とか、


すれ違う幸せそうなカップルをうらやんでしまう情けないあたしとか、


今こんな気持ちを抱えてトボトボと一人で歩いている惨めな姿とか。



全部思い出して、声をあげて泣いちゃえばいい。


周りの目なんかおかまいなしに、大声で泣き叫べばいい。


だけど、そんな簡単なことができないなんて。


あたしのちっぽけなプライドはそれすら許してくれない。



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