純恋〜スミレ〜【完】

優輝がいるとしたら、あのベンチだ。


顔に降り注ぐ雨を拭うことなく、ベンチに歩みを進める。



「あっ……」



その時、あたしは見つけた。


ベンチに座り傘もささずに雨を浴びる男の子を。


何をするわけでもなく、ただぼんやりと足元に視線を落としている優輝。


その姿はどこか弱々しくて、今すぐ駆け寄ってしまいたくなる。



こんなに近くにいるのに、どうしてこんなに遠いんだろう。


謝っても許してもらえないことは分かってる。


あたしが優輝のお兄さんを奪ったという事実も変わらない。



だけど、本当にこのままでいいの……?


このまま今までのことを全てなかったことにして生きていくのがあたしの正しい道なの?







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