純恋〜スミレ〜【完】
ゆっくりと優輝への第一歩を踏み出した時。
「……――っ」
ベンチに赤い傘を持った女性が近付いて行った。
女の人は他に見向きもせずにベンチを目指すと、スッと優輝の頭の上に傘を移動させる。
その時に見えた女性の横顔。
それが麗華さんだと気付いた時、あたしは絶望のどん底に叩き落とされた。
ゆっくりとした動作で顔をあげた優輝は、麗華さんと何か言葉を交わしている。
バカみたい、あたし。
優輝があたしを待っていてくれてるだなんて、勘違いもいいとこ。
自意識過剰すぎて、自分でも笑えてくる。
あたしは骨組みの折れた傘の柄をグッと強く握り締めた。