純恋〜スミレ〜【完】
「あの日……横断歩道を渡り始めた時、兄貴が突然駆けだしたんだ」
5年前の壮絶な事故の様子を語る優輝の顔は次第に強張っていく。
「その理由を考える間もなく、兄貴は目の前にいた女の子の背中を押した」
「その女の子が……あたしなんだね」
「あぁ。突っ込んできたトラックにはねられて、道路の隅まで飛ばされた兄貴に駆け寄った時、もう兄貴の意識はもうろうとしてた」
当時のことを思い出したのか、優輝は苦しそうに顔を歪める。
あたしはただ黙って相槌を打った。
「兄貴……その時言ったんだよ。額から流れる血で目もほとんど開けられないくらいボロボロになりながら」