純恋〜スミレ〜【完】
「兄貴は自分の意思で純恋を助けたんだ。あの事故は、兄貴のせいでも、もちろん純恋のせいでもない」


「優輝は……いつからあたしがあの時の女の子だって気付いてたの?」


「正直、自販機の前で純恋の名前を聞いた時はまだ半信半疑だった。でも、事故現場まで行って確信を持った。この子が兄貴が自分の命に代えても守った子だって」


「あたしを恨んだり……しなかった?」


自分の言葉に胸が締め付けられて唇が小刻みに震える。


あの時の優輝は、どんな気持ちだったの……?



「純恋を恨んだことなんて一度もないから。むしろ、未だに兄貴の命日に花をたむけに行ってくれてるんだって知って嬉しかった」


「優輝……」


「うちの親、俺と兄貴が幼い頃に離婚してさ。母親に引き取られたのはいいけど、母親は病弱で兄貴が亡くなる1年前に病気で死んだんだ」


「そうだったんだ……」


だから、いつ来ても優輝の家はシーンっと静まり返っていたんだね……。


優輝の話に胸がギュッと締めつけられる。


お母さんを病気で亡くし、そして最愛のお兄さんまで……――。


だけど優輝は強い眼差しをあたしに向けた。


「あの日、思ったんだ。雨に打たれて涙を流す弱々しい純恋を見て。今度は俺がこの子を守ってあげようって。兄貴が純恋を守ったように、今度は俺が純恋をって」


そして、あたしの頭を大きな手の平で撫でた。

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