キスチョコ【短編】
店も賑やかになってきた7時過ぎ。
とある一組の男女が店に入ってくるとリサちゃんの顔が一瞬曇った。
それでもよく見ていなければ分からない程度の変化だったからあたしはリサちゃんの様子に気付かなかった。



そのお客様はおそらくはあたしと同年代、男のほうはおぼっちゃん育ちっぽいちょっとワガママそうなオーラが漂い、女の方は少しおつむが足りなそうなカップルだった。

そのお客様はあたしたちの担当テーブルでない席に着いたのだがその男性のほうがやたらとリサちゃんを呼びつける。


あたしたちはただやみくもにテーブルを見ているわけではなくキチンと担当ゾーンが決まっている。
それにより責任が明確になるしお客様もいちいちウェウトレスを探さなくて済むからだ。
ウェイトレス側も散漫にならずにテーブルを見ることが出来るのでよりよいサービスが出来るという仕組みだ。

これからどんどん忙しくなってくるというのに担当外のテーブルにちょくちょく行かれたのでは仕事にならない。
けれどあたし達はお客様に口答えだと出来ずにどんどんキチンと担当が決められていたゾーンが乱れ、仕事が円滑にいかなくなっていった。
たまりかねたあたしはリサちゃんが呼ばれるともういかせないであたしが自ら行った。





「お客様、ただいまお客様の担当を呼びますので少しお待ちいただけますか?」


「なんで?アノコ手あいてるでしょ?」


「彼女とは別にお客様の担当がおりますのですぐにそちらをお呼びいたします」


「アノコじゃなきゃこの店に来た意味がないんだよ」
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