キスチョコ【短編】
男とキスしてるのに何も感じないあたしがダメなのか。
それとも
なにも感じさせないこいつがだめなのか。





けれど実際こいつの傍は実に居心地がいい。
二人兄弟の次男坊として生まれたこいつには威張ったところがない。
それにこいつの職業はコックさんだ。
あたしにおいしいハンバーグやシチューを食べさせてくれる。



あたしは美容師さんとかコックさんみたいな手に職を持っている人が好きだ。


美容師さんなら、あたしの髪を優しくシャンプーしてからあたしに似合う髪形にカットしてくれる。
そのあたしの髪に触れる優しい指が好き。
あたし、というものを見抜いているかのように、あたし自身が気付かない魅力を引き出してくれる、
その目が好き。

コックさんなら、あたしのために肉やジャガイモを切って鍋を振るう、そのコックコートに隠れた筋肉が好き。あたしの味覚を知り尽くした、その舌が好き。そして美味しい料理を食べさせてくれる、という分かりやすい愛情表現。






あたしの為にしてくれることが明確な方がバカなあたしにはありがたいのだ。
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