好きな人の忘れ方
「佐伯」
「ん?」
思うように進まない書類を凝視してると、斜め前のデスクから声が掛かる
「昼、出ない?」
「あー・・・・ちょっと」
「・・・・そっか」
「うん」
「じゃ、お先」
「いってらっしゃい」
にっこりと笑う同僚の背中を少しだけ見送るフリをして、こっそり溜息
正直、彼には少し困ってる
毎日ではないけれど、結構な頻度でああやってお昼に誘われる
多分、昼ごはんをあまり食べてない私を気遣ってくれてるんだろうとは思うけど
一応、同僚でも上司にあたる訳だから部下の管理的なもんだろう
「人の好意は受け取るべきだ」
「・・・・・」
いつそこに?
声がしたと思えば、私のデスクから少し離れた部長のデスクに座ってる啓太郎
ゆっくりそちらを見て、すぐに書類に目を向けた
「・・・・・・」
「一応、俺も部長補佐だったもんで」
考えてる事が筒抜けって言うのは、実に面白くない
「別に、お前だけの声を確実に拾ってる訳じゃないよ?他の奴らのも全部だ」
「・・・・」
それは。それは・・・・すごいですね
「一応、ここでは俺と会話しないのが賢明だな」
頬杖を付きながらこちらを見ている啓太郎を視線の端に入れながら黙る
会社で一人事はちょっとね・・・・
すっと気配が消えた
はっとして元の場所を見れば、啓太郎は居なくて
広いフロアに私だけが残って居る事に今更ながら気がついた
「佐伯」
「うわっ!!」
ぼんやりとしてた背後からの呼びかけに思わず驚いた
振り返れば、そこには啓太郎じゃなく先程の彼