短編
絡まる ※
彼の愛情表現は変だ。
別に暴力とかそんなのはされない。
でも変なんだ。
というか愛情表現なのかすら最近疑問だ。
「ねぇ、楽しい?」
「楽しいわけあるか…。」
「そっか。」
私の返答に嬉しそうに笑う彼。普通は逆の表情をすべきだ。
「彼女の嫌がる顔が好きなの?」
「う~ん、好きかもしんない。」
「悪趣味…。」
今の状況を説明するならばまさに私は命の危機を感じる場面だ。屋上の柵を越えて足を宙に放り出して縁に座っているなんて、え?、なに?、この状況。すごい逃げ出したいけど後ろから彼が座って抱きついてるから逃げ出せない。
「君はさぁ、私と無理心中がしたいの?」
「いやだよ。死にたくない。」
「じゃあなんで?」
こんなことしてるの?と、次の言葉は彼の唇に阻まれてでることはなかった。
「ドキドキしてる。」
「そりゃあ…こんな状況だし。」
彼はゆっくり唇を離すと私を抱きしめる腕の力を強めた。
「生きてるんだね。」
「死んではないな。」
「うん。好きだよ。大好き。すごくすごくすごく」
彼は不安なのかも知れない。なにがとかなにでとかはわかんないけど…。
「ねぇ?このまま…」
飛び降りようか?
なんて言えば彼は少し笑って嫌だよって言った。
「君に触れなくなる。」
彼の呟いた言葉が風に飲まれて消えた。