掲示板のすみっこで
彼らの影響
「橋本くんが、ですか」
数週間前にも同じ言葉を店長という同じ相手に返したのを覚えている
違うのはバイト終わりということ
その時は遅刻が多いことを指摘された
今回はもっと深刻な物だった
「一昨日、橋本が無断欠勤したんだ」
店長は体格以上に重々しい口調で言った
「無断欠勤…連絡は通じないんですか?」
「携帯には全く。自宅には昨日一回して母親が出たけど弱々しい感じでちゃんと伝えてくれるかどうか」
バイト面接で橋本くんが提出した履歴書を机に広げる
まだ時間経過のない紙は真新しく、うっすらと書きなぐる筆跡が彼らしい
「今日もオープンで入ってたけど、来なかった」
「そうでしたね…」
延びてくれないかと頼まれたのは勤務時間が終わる1時間前
深くは考えずにフランクフルトを補充しながら大丈夫ですと返事していた
「今日の桑井みたいに前回も他の人に延長してもらったから何とかなったけど、これが続くようだったら考えないとな」
「…それは、どういうことですか」
玉のような汗が頬を伝わせ、店長は立ち上がる。1番下の引き出しを開けて、ファイルに履歴書を戻した
ガタン、鈍い音を立てて閉まる
「明日もオープンからで、予定では研修最終日。それもすっぽかすようなら、それなりのことをするしかないだろ」
上着を脱いだ店長はユサッユサと体を揺らし、そう言い残して店へと消えていった
ドアが一瞬だけ開いて、トイレを貸してほしいという声が聞こえる
丸椅子を回転させてテーブルによっ掛かった
見上げた天井のクモの巣は破れ、跡形もなくなっていた
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