掲示板のすみっこで


日が沈み、暗さもせわしなさも増すコンビニに面した歩道や車道


……もう、帰っちゃったかな

そう思った彼が外を出てすぐ近くに居て、中に入ろうかどうか迷っていた


「橋本くん」

「………」

「どうしたの?何かあった?忘れ物とか…あっ、」

鞄の内ポケットにしまっておいた携帯電話を渡す

「はい、テーブルに置いたままだったよ」

「……あ、」

「あれ、違った?橋本くんのじゃなかった?」

「いや、俺のです」

自分の白とは反対色の黒。たまに操作しているのを見かけたから、すぐに橋本くんのだと気づいたんだ


「そうだ、さっき着信あったみたいだよ」

「…中、見ましたか」

「え?」

「中、見たんすか」

「ううん。見てないよ」


「そうすか」と呟いて、疑ってるのか手の中の携帯電話を持ったまましまわない

あ、そうか。俺が居たら着信チェックできないか


「じゃあ、気をつけて帰ってね。お疲れ様」

行き交う人の流れに従って家へと向きを変える。軽く手を上げて、その場を去ろうとしたらか細い声が聞こえた


「……とう、ござい…ます」


聞き返そうと振り返る。俺よりも長身で、睨みをきかせる目つきは鋭く、でも彼の声は確かに小さかった


「ありがとう、ございました。これ、携帯も、さっきの……レジも、」

橋本くんからお礼を言われるのが初めてで何だか照れ臭い

二回目ははっきりと聞こえたその言葉と、しっかり向けられた真っすぐな視線


「どういたしまして」

また手を振り、応えた。背を向けて歩き出す。まだ小さな変化だけど、きっとこういうことが一歩なんだ


家に帰る途中で、母親に買い物を頼まれたけど気分が変わることはなかった

.
< 44 / 137 >

この作品をシェア

pagetop