掲示板のすみっこで
日が沈み、暗さもせわしなさも増すコンビニに面した歩道や車道
……もう、帰っちゃったかな
そう思った彼が外を出てすぐ近くに居て、中に入ろうかどうか迷っていた
「橋本くん」
「………」
「どうしたの?何かあった?忘れ物とか…あっ、」
鞄の内ポケットにしまっておいた携帯電話を渡す
「はい、テーブルに置いたままだったよ」
「……あ、」
「あれ、違った?橋本くんのじゃなかった?」
「いや、俺のです」
自分の白とは反対色の黒。たまに操作しているのを見かけたから、すぐに橋本くんのだと気づいたんだ
「そうだ、さっき着信あったみたいだよ」
「…中、見ましたか」
「え?」
「中、見たんすか」
「ううん。見てないよ」
「そうすか」と呟いて、疑ってるのか手の中の携帯電話を持ったまましまわない
あ、そうか。俺が居たら着信チェックできないか
「じゃあ、気をつけて帰ってね。お疲れ様」
行き交う人の流れに従って家へと向きを変える。軽く手を上げて、その場を去ろうとしたらか細い声が聞こえた
「……とう、ござい…ます」
聞き返そうと振り返る。俺よりも長身で、睨みをきかせる目つきは鋭く、でも彼の声は確かに小さかった
「ありがとう、ございました。これ、携帯も、さっきの……レジも、」
橋本くんからお礼を言われるのが初めてで何だか照れ臭い
二回目ははっきりと聞こえたその言葉と、しっかり向けられた真っすぐな視線
「どういたしまして」
また手を振り、応えた。背を向けて歩き出す。まだ小さな変化だけど、きっとこういうことが一歩なんだ
家に帰る途中で、母親に買い物を頼まれたけど気分が変わることはなかった
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