失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
僕の部屋に簡易式のベッドが運ばれ
"先生"は一晩泊まりがけで無理やり
僕の看病をさせられることになった
多少の文句しか言えない関係らしく
医者は疲れきった顔で男の要求を
飲まざるを得なかったようだった
二人は夜食を取りに外に出た
そして1時間ほどすると医者だけ
部屋に戻ってきた
「仕方ないな…逆らえないからな」
医者は苦笑しながら腕を捲った
注射器でシャブを自分に打っている
「あ…それ…って…」
「緊急の夜勤にはこれが一番だ」
「やっぱり…」
やっぱりシャブ中だった
「持ちつ持たれつってヤツでね」
カット綿で針痕を押さえながら
医者はチラッとベッドの僕を見た
「きみも自分から始めたのか?」
僕は横になったまま
黙って首を横に振った
「それは…可哀想だな」
「でも…アル中には…なってました
から」
それもヤク中には違いない
「きみ…年はいくつなんだ」
「19…です」
「人生…踏み外したな…まだ若いの
に…ここからは出られないぞ」
知ってる
「ええ…出られないはずなんですが
出される…みたいです」
「へぇ…なんで?」
医者は珍しげに聞いてきた
「取り引きの…オマケの商品…です
…このプレイをしたお客が買うんだ
って…あの人が言ってました」
「出られても…地獄…だな」
その通りだ
「…墓穴…かも…」
一瞬医者の目が険しくなった
「なぶり殺されるために生き返らせ
たのか…ご苦労なことだ」
医者は不機嫌になった