失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】





服薬のために医者に起こされた

完全に禁断症状

気持ちがくまなく憂鬱と焦燥で

満ちている

「じゃあ帰るから…薬のんでよ」

医者はカバンの中の異変には

気づいていないようだった

「おっと…忘れるところだった」

医者は変な顔をしながら

僕にいつもの手錠をはめた

禁断症状で震える手首に

ステンレスの拘束具が

カチャカチャといやな音を立てて

はめ込まれた



「すまんな…頼まれたんだ…逃がし

てやりたいけど…勘弁してくれ」

医者はそんなことを言った

「わかってますよ…僕を逃がしたり

したら先生が危なくなる」

しばらくぶりの手錠がやけに重い

拘束されたことで更に精神が沈んだ

「君は…」

なにか言いかけたが

医者は口をつぐんだ

それからすぐに携帯で

ドアの外と連絡を取った



外から鍵が開く

医者が部屋を出るまで

なに食わぬ顔をしながら見送った

医者は振り向きもせず出ていった





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