失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



そしてついに

取り引きの夜が

やってきた

引き返すことの出来ない日が



迎えにきた男は

もう僕の目を見ることはなかった

手錠が両手にはめられた

いつもと違う

ダウナー系のクスリを飲まされると

しばらくしてからぼーっとしてきた

辺りが歪んで見えてきた

酒に酔った感じに似ていて

フワフワして思考がぼんやりした

男の部下に頭からすっぽりと

黒い目隠しの袋を被せられた

部下が僕を抱き抱えるように立たせ

そのまま歩かせた

それはこの監禁部屋から

最初で最後の外出だった




エレベーターの降下する感覚が

奈落に落ちていくように感じた

しばらくして落下が止まり

例のチンという音がした

エレベーターのドアが開く

排気ガスの匂いがした

連れて来られた時のパーキングに

来たようだった

フラフラする身体を抱えられ

パーキングを歩かされた

車のドアの開く音がして

車に押し込まれた




少しして車が動き始めた

僕は男たちと共に取り引き場所へと

運ばれていった





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