失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



ベッドの裏のメスを

置き忘れてきちゃった

あそこにまた誰か連れて来られたら

見つけて使うのかな

それよりもう誰も

あそこに連れて来なければいいな…



ぼーっとした頭で

そんなことを思い起こしていた

これから嬲り殺されて

死んでいくのにね

僕は怖くないのかな…

クスリで麻痺してるのか

絶望しきって諦めているのか

僕はなぜか怖くなかった

まだ傷も癒えてはいない

奈落より深い井戸の底のような墓穴

そこにこれから向かうはず

なのに

僕は…




感じた…から

愛が

どんなところにも流れてる


それを感じたから?

そう

僕はあの悪党から

何か大事なものをもらった気がする

それはいびつで歪んでいて

黒くて

残酷で

でもその中に

最後に切ないほど温かい

なにかを閉じ込めて





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