失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



僕は今までの人生を振り返っていた

母から

父から

兄からもらった愛情を


親友から

バンドの仲間から

兄の父親から

不良神父から

バイト先の店長

興信所の担当の人

プッシャーの男


そして…あの人に


僕は今まで

なんて愛されていたんだろうか

何度も落ちた地獄の中でも

心が死んでしまうような

残酷な景色の中で翻弄されても




ああ

兄貴

兄貴

僕は愛されてる

まるで兄貴がいつもそばに

いてくれてたみたいだよ

あなたは愛そのもの

兄貴

死ぬ前にもう一度だけ逢いたかった

だけどね

だけど…

僕はみんなの愛の中に

あなたがいたって

いまそう感じるんだよ

いつもいつも

絶対に途切れない愛の流れが

いつも…そこに…

絶望であるとき見失っても

自分の影を闇と間違えたとしても…




愛だけが

ただ

そこに





車が静かに止まる

ドアの開く音がする

誰かに抱き抱えられ

車から引きずり出される

なにもかもがスローモーションで

それはまるで世界の終わりみたいで

これがクスリのせいなのか

なんなのか

僕にはよくわからなかったけれど





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