失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



あなたのこと

僕は

好きだ

兄貴以外に好きになったのは

あなただけ




でも

兄が見つからないこのまま

彼とこれ以上愛し合うのは

僕には無理だ

絶対に…

彼のために祈っても

そして命を助けてもらっても




彼はゲームみたいに感じてるのかな

楽しんでいる

いまは少なくとも僕にはそう見える

ことがある

時折見せる優しさが

嘘なのか本当なのか

分からなくなることもある

優しい彼をあまり知らないからか

サディスティックにされている方が

慣れてるけど…




僕はまだ彼に恐怖を感じる

猫がネズミをいたぶるみたいに

僕を手の中に入れて

死なない程度に弄ばれているような

あの恐怖を僕は不意に思い出す

当たり前…かな

当たり前だよね

あんなひどい仕打ち

好きなのに

すごく複雑な気持ちになる



死線を超えて

彼は変わったのか

それとも人は変わらないのか…

それは未知の領域だった

多分

彼も





あと2時間ほどで

父と母がここにやってくる

全身が震えて

冷や汗が腋を濡らしている

怖い

怖くてたまらない

両親のことも

彼のことも

僕の手から離れた

見えない未来が






< 137 / 514 >

この作品をシェア

pagetop