失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



僕の全身から一気に力が抜けた

虚脱感がどっと押し寄せ

僕は大きく深呼吸をしていた

「…ごめんなさい…ありがと」

そう僕が言うと彼は補足して言った

「警察と麻薬Gメンは所轄が違うか

らね…私は厚労省の手先だ…警察に

はかわりないが」

彼は手帳を僕に見せながら

まだクスクス笑っていた

「これでいいか?…しかし君は…」

彼は手帳をパタンと閉じ

また元のポケットに戻した

「…これが偽造だったらどうするん

だ?…私ならやりかねんぞ」

彼はニヤニヤしながら

意地悪な顔で僕を眺めていた

「もう…いい…偽造だったら…諦め

る…疲れた」

それを聞いてもあまりドキドキは

しなかった

ドキドキする気力がなくなっていた

恐怖の頂点を越えてしまって

疲れきってしまったみたいだった

「わかった…任せる…よろしく…お

願いします」

「観念したって感じだな」

「ああ…もうどうでもいいよ」

彼は満足そうに微笑んだ

「それは良かった…さて君には親御

さんが来る前に薬で朦朧としていて

もらうことになる…いきなりパニック

になられても困るしね…黙って私と

ご両親の会話を聞いていて欲しい」



それは…良い作戦だ

僕はまた彼に薬を飲まされた

頭を殴って気絶させるわけにも

いかないからな…と彼は笑った

30分くらいすると意識がダウンして

眠気が襲ってきた

うとうとして身体が動かなくなり

僕は夢見心地のままボーッと

ベッドに横たわっていた






< 140 / 514 >

この作品をシェア

pagetop