失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
…彼の…声がす…る…
(…こちらです)
誰かの…息を飲む音…
(生きてるの?生きてるの?)
…母の声…だ…
(ああああ…)
ああ…泣かないで…ごめん…
母さん…ごめん…
(だいたいのことは警察から聞いた
んですが…)
…親父の…声…
薄目を開けて声のほうを見る
…二人とも…やつれて…
(大変良くない状態でした…状況も
含めてね…)
…彼が…説明して…る
(今は…?)
(少し前にパニックの発作が出たの
で鎮静剤を投与しています…ですが
衰弱と薬物の影響がかなりあります
回復までしばらくかかりそうですが
脳や臓器の深刻な損傷には至っては
いないと思われます)
僕の頭に母の手が触れる
(苦しがって…いますか?)
母の…声…
(身体も精神もかなり…禁断症状が
ありますから…しばらくは精神薬で
コントロールしていかないと…また
再使用する危険性があります…それ
より息子さんの一番の苦痛は…彼の
お兄さんの失踪だと思われるのです
が…)
彼はいきなり事態の本質を突いた
(ご存知でしたか)
父の低い声がした