失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】
薬で朦朧とする中でも彼がいきなり
核心に突っ込んだことに僕は驚いた
彼はどこに話を着地させる
つもりなんだろうか
彼は父に尋ねた
(警察は事件性がないとしているよ
うですが)
(はい…仕方ないので興信所に依頼
しましたが…まったくと言っていい
ほど手がかりがない…)
ぜんぜん…進展してない…んだ…
それを聞いて僕はあの時に
引き戻された
父親に激怒してアル中になった
あの頃の気持ち
心の中に鉛のカタマリのような
冷たく重いものがあることを
僕は一瞬で思い出した
…何も…変わって…ない…
みんな…苦しんで…
その暗さと重さは
犯されて殺されかけた
あの気持ちよりも
殺伐としていて絶望的だった
…そう…これを…わすれたかっ…た
この拷問みたいな気持ちを…
(…お兄さんの失踪と今回の事件に
関連性があるかどうか…こちらでも
調べなければならないかもしれませ
ん…その時はご協力お願い致します
…よろしいですか?)
(本当ですか?本当に調査を?)
母の悲痛な声がした
彼が兄のことを調べてくれる…
いつからそれを考えていてくれて
いたんだろうか
それとも両親に信頼されるための
ただの…口約束…?
いまは彼の考えはわからなかった