失われた物語 −時の扉− 《後編》【小説】



彼は続けた

(ええ…期待はされないでもらいた

いですが…興信所の調査も何も進展

がないですからね…この件との関連

性がなければ調査は終わりますよ)

(それはわかっています…しかし可

能性は信じたいと思います…あなた

のお話は大変ありがたく思います)

父の明るい声を久しぶりに聞いた

(お兄さんが失踪したことへの息子

さんの罪悪感は深い…特にご両親に

対してね…事件に巻き込まれた直接

のきっかけは息子さんに聞き取り調

査して明らかにはなりますが…)

(この子がそんなことを…?)

…言ってない…でも…正しい

(息子さんはお兄さんの失踪ですで

に心を病んでいる…その心の隙間を

上手く利用されたようです…さて…

ここではなんですからカフェに移動

しましょうか…少し込み入った話も

しなければなりませんしね)

(…わかりました…この子の意識は

今日は戻りますか?)

父親が彼に尋ねると

彼は僕の顔をなでながら僕に言った

(聞こえるか…?)

力が入らなかったが

僕は少しだけ首を動かした

(聞こえるのね…!)

母が僕にはなしかけた

(息子さんを安心させてあげて下さ

い…朦朧としているがあなたがたが

来ていることはわかっているようで

すから…こんなことになって…更に

あなたがたには顔向け出来ないと彼

は恐れている…それは治療には一番

妨げになる)

母は僕に言った

(大丈夫…あなたが生きていてくれ

れば…それでいいの…お父さんも…

それだけを願ってる)




それを聞いた瞬間

胸がいっぱいになった

僕の目から涙があふれていた



母さん

兄貴にもそう言ってくれたよね

いま

同じ言葉を僕にもくれた

許して

許してくれるの…

こんな僕でも


(早く…元気になれよ…また来るか

らな)

父親が小さい声で僕に言った

泣きそうな声だった

「…ご…めん…」

僕はそれだけを喉から絞り出した

父親が僕の胸の上に手を置いた

大きな手

僕は申し訳なさに

もう何も言えなかった






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